膝蓋骨脱臼(パテラ)について

正常な状態と外れた状態の膝のイラスト

膝蓋骨脱臼とは??

膝蓋骨脱臼(しつがいこつだっきゅう)は、ひざにあるお皿の骨(膝蓋骨)が正常な位置から内側あるいは外側にはずれてしまう病気です。膝蓋骨を英語でpatella(パテラ)ということから、膝蓋骨脱臼は「パテラ」とも呼ばれています。膝蓋骨は靭帯と腱に連結した形で膝の前面中央に位置しているのが正常な状態で、関節を曲げ伸ばしする際に“滑車”のようになめらかに上下します。しかし、何らかの原因によりその軌道からはずれてしまった状態を膝蓋骨脱臼といいます。内側に外れる内方脱臼はトイプードル、ヨークシャーテリア、ポメラニアン、チワワ、シーズーなどの小型犬に多く、外側に外れる外方脱臼はゴールデンレトリーバーなどの大型犬にまれにみられます

膝蓋骨脱臼の原因

膝蓋骨脱臼の発生には2つの原因が考えられます。

①先天性のもの

生まれつき後ろ足の骨が曲がっているなど、膝関節や膝関節周囲にみられる先天的な形態の異常から起こります。

原因が先天性の場合は防ぐ方法がないため、症状が悪化しないようにこまめに観察をする、定期的に診察や健康診断にお連れいただくことが大切です。特に生後3~12ヶ月の成長期の間は急に悪化する可能性があるため、注意が必要です。

②後天性のもの

交通事故や高い所からの飛び降り、転倒など外傷的な原因で脱臼が起こります。しかし、明らかに外傷的な原因がなくても、気が付いたらいつもと歩き方が違う、散歩中に突然「キャン」とないて足をひきずる、ケンケンする、びっこをひくという事例もあります。原因が後天性の場合は、まず適切な体重管理を行いましょう。肥満の場合は減量し、膝関節への負担を減らすことで症状の改善が期待できます。また、フローリングはツルツル滑りやすく症状を悪化させ、足を痛める原因にもなりますので、カーペットなどの滑り止めを敷いたり、定期的にお爪切りや足裏の毛刈りを行うことで事故を予防することが大切です。

膝蓋骨脱臼の症状

膝蓋骨脱臼は、症状により4つのグレードに分けられます。

グレードⅠ膝蓋骨の位置は正常です。膝をまっすぐ伸ばして膝蓋骨を手で押すと簡単に外れますが、手を離すと自然と元の位置に戻ります。
普段の生活の中で脱臼を起こすことはまれで無症状なことがほとんどです。激しい運動をした後に跛行(=びっこ)がみられたり、たまにスキップのような歩き方をすることがあります。
グレードⅡ膝蓋骨の位置は正常です。膝をまっすぐ伸ばして膝蓋骨を手で押すと簡単に外れますが、手を離すと自然と元の位置に戻ります。
普段の生活の中で脱臼を起こすことはまれで無症状なことがほとんどです。激しい運動をした後に跛行(=びっこ)がみられたり、たまにスキップのような歩き方をすることがあります。
グレードⅢ膝蓋骨は常に外れたままですが、手で押すと一時的に元の位置に戻ります。
足をひきずったり、しゃがんだ姿勢で歩くなどの症状がでる状態です。また、腰をかがめ内股で歩くようなことが多くみられたり、地面に足を触れるだけでケンケンしたりすることもあります。脱臼した状態が続くため、膝関節へのダメージを与え続けてしまうグレードです。
グレードⅣ膝蓋骨は常に外れたままで、手で押しても元の位置に戻りません。
最小限しか地面に足をつけないような歩き方になったり、足を挙げたままの状態になります。また、歩くときに背を曲げ、うずくまるような姿勢になります。早い時期に矯正しなければ、骨の重度な変形などが起こってしまい、修復困難となることもあります。

膝蓋骨脱臼の症状をチェック!

膝蓋骨脱臼が起きているからといって必ずしも症状が出るとは限りません。特に初期の場合は痛みが発生しないこともあり、症状の進行具合で足を浮かせる時間、頻度が高くなっていく傾向があります。
また、脱臼は膝関節全体へのダメージを与えます。骨へのダメージが蓄積すると骨の変形、関節へのダメージが蓄積すると関節炎を起こすことがあります。さらに膝蓋骨内方脱臼で靭帯の損傷がおきることで、前十字靭帯断裂という別の病気が同時に起こることがあります。

少しでも気になる症状がございましたらいつでも当院にご相談ください。

下記に膝蓋骨脱臼の症状をあげるのでチェックしてみましょう!
あてはまるようであれば動物病院での診察をおすすめ致します。

  • 片足をあげたまま歩くことがある
  • 足を触ると痛がる・キャンとなく
  • びっこを引く
  • 散歩中に急に立ちどまって歩かなくなる
  • 激しい運動をしたがらない
  • 足を伸ばす仕草をする
  • 立っている時に、足先の向きが内側や外側を向く

膝蓋骨脱臼の診断と検査方法

検査方法は主に3つあります。

①身体検査(歩行検査)

歩行検査を行います。実際にわんちゃん、ねこちゃんに歩いてもらい、歩き方や早足の時の様子を観察します。
各足に体重が均等にかかっているか、動き始めの状態などが確認できます。

②触診

もっとも重要な検査です。
わんちゃん、ねこちゃんを横に寝かし、膝関節をまっすぐな状態と曲げた状態に持ち、内方脱臼と外方脱臼の診断を行います。
また、左右の後ろ足で膝関節や筋肉量に差がないか触って確認します。

内方脱臼の診断

片方の手で脛骨を内側に回転させながら、もう片方の手で膝蓋骨を内側に押し、膝蓋骨の内方変位を触診する。

外方脱臼の診断

片方の手で脛骨を外側に回転させながら、もう片方の手で膝蓋骨を外側に押し、膝蓋骨の外方変位を触診する。

③レントゲン検査

骨格変形の程度や骨関節炎の程度、他の病気を併発していないかなどをX線画像で詳しく調べます。
手術が適応の場合には術前計画にも用いられます。

膝蓋骨脱臼の治療方法
根本的な治療は外科手術です。しかし、グレードが低く症状が軽度の場合は内科療法で管理することもできます。

膝蓋骨脱臼の治療法

1.外科的治療

具体的に手術ではこれらについて整復を行います。

  • 靭帯の向きの修正
  • 内側・外側に引っ張る強さの調整
  • 大腿骨の溝を深くする
  • 周囲の筋肉のバランスを調整する

わかりやすく言うと、膝蓋骨、靭帯、脛骨粗面(脛骨上の靭帯が張り付く所)が一直線上になること、膝蓋骨が大腿骨のくぼみにはまり、再脱臼させないようにすることです。
さまざまな術式が報告されていますが、術式によっては難易度が高く、どの術式も100%再脱臼を防げるものではありません。当院では両側同時の手術も行っています。

手術には下記の方法があり、その子の状態によってより最適な術式を選択します。


膝関節構造の位置不良を正す目的で行う手術法

脛骨粗面転移術

内方脱臼の場合、多くは大腿骨に対して脛骨が大きく内側までねじれています。この骨どうしのねじれやゆがみそのものを治すのは難しいため、脱臼に伴いずれてしまっている脛骨側の靭帯が張り付く面(脛骨粗面)を切り出し、靭帯、膝蓋骨、脛骨が直線的に並ぶように整復する術式です。膝蓋骨靭帯を脛骨粗面に付着させたまま、骨へのアプローチを行うため、靭帯には影響を与えません。

内側(外側)支帯切離

膝蓋骨を内方あるいは外方に必要以上に引き寄せようとする筋肉を切り離します。膝の内側には縫工筋と内側広筋という2種類の筋肉と関節包という袋があるので、膝の中の状態によってこれらを切り離し、正しい膝関節構造の位置へ戻す術式です。

関節包縫縮

関節は関節包という構造物で包まれています。
内方脱臼であれば、外側の関節包(外側は線維性膜、内側は滑膜で構成された関節を取り囲む組織)を切り出し、内側へきつく縫うことで外側へ引っ張る力を獲得し、正しい膝関節構造の位置へ戻す術式です。

大腿骨あるいは脛骨の骨切り術

骨のゆがみやねじれにより筋肉が常に張っている状態の場合に行う、骨を切って正常な位置に戻す術式です。大腿骨あるいは脛骨を一部切除し、短くすることで筋肉にゆとりを持たせます。重度に進行した場合に適応になります。

関節外法/脛骨内旋制御術(Flo法・LSS)

強度の強い糸を腓腹筋種子骨と脛骨の骨孔に通し関節の外から固定することで、膝関節の不安定をなくす方法です。

大腿骨滑車における膝蓋骨を安定させる目的で行う手術法

滑車溝造溝術

膝蓋骨は本来、大腿骨に存在する滑車溝という溝に収まっています。
軟骨表面だけを残して、下の骨を四角く削り、人工的に滑車溝(くぼみ)を深くして脱臼しにくくする術式です。
手術は約4日の入院が必要です。ご自宅では安静に過ごしていただき、術後も定期的な診察とレントゲン検査を行います。

2.内科療法

内科療法は保存療法であり根本的な問題を解決するものではありませんが状態、年齢によっては内科療法を選択することがあります。
保存療法とは環境改善、生活改善、投薬により症状を抑制する治療方法です。また、骨関節炎の進行を抑制します。

発症年齢や重症度、症状の程度、経過、体重、飼育環境など様々な事を考慮して治療方法を検討していきます。
その子にあった治療方法を一緒に考えていきましょう。

環境改善

滑りやすいフローリングを避けたり、カーペットを敷きます。定期的な爪切りや足裏の毛刈りも大切です。
また、段差や階段ののぼり降り、激しい運動などは控えます。

生活改善

体重が増えると症状が出やすくなりますので、肥満にならないための体重管理が大切です。
また適度なお散歩をしっかりして筋肉が落ちないようにします。

投薬

痛みが強く出ている時は鎮痛剤などを使用して適度な運動ができるようにします。
また、関節軟骨の保護のためにサプリメントの投与を行います。

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