整形外科:前十字靭帯断裂について
前十字靭帯断裂とは??
前十字靭帯断裂(ぜんじゅうじじんたいだんれつ)とは、太ももの骨(大腿骨)とすねの骨(脛骨)を結びつける2本の十字靭帯のうち、前十字靭帯が切れてしまう病気です。
前十字靭帯は脛骨が大腿骨の前に飛び出さないよう制限する役割をしていますが、前十字靭帯が断裂してしまうことで膝関節が不安定になり、半月板や関節軟骨に損傷が起こり、歩行に異常がみられるようになります。
前十字靭帯断裂の原因
前十字靭帯断裂の発生には複数の原因が考えられます。
靭帯の変性
加齢や病気(副腎皮質機能亢進症などのホルモン疾患)により前十字靭帯の構造に変化が生じ、靭帯が弱くなっていきます。変性が進行していくと靭帯は十分な強度を維持できなくなり、普段の運動でも小さな損傷が蓄積していき、部分断裂や完全断裂を引き起こします。
小型犬の膝蓋骨内方脱臼(パテラ)
小型犬の膝蓋骨内方脱臼と前十字靭帯断裂の併発はよく経験する複合疾患です。膝蓋骨が内方脱臼することで、すねの骨(脛骨)が内側に捻じられることで前十字靭帯に張力がかかり、前十字靭帯が損傷します。
肥満
肥満の場合、適正体重の子達と比べて前十字靭帯断裂の発生リスクが上昇すると報告されています。
腫瘍
膝関節に発生する腫瘍により、前十字靭帯を含めた膝組織が破壊されることで発症します。腫瘍の初期段階の場合、前十字靭帯断裂の症状のみ見られ、腫瘍を見落とすことがあります。レントゲン以外の検査を組み合わせることで腫瘍が関係しているのか調べることができます。
外傷によるもの
フリスビーやボール投げなどのスポーツを行うことで、非常に強いエネルギーが急激に膝関節に加わり前十字靭帯の損傷に繋がります。
または交通事故により靭帯を損傷する場合もあります。
前十字靭帯断裂の症状
片側、あるいは両側後ろ足の跛行(びっこ)がよくみられます。しばらくすると症状が軽減することがありますが、様子を見てしまうと症状の悪化につながることがあるため、後ろ足を挙げて痛そうにしているときは早めのご来院をおすすめします。
このような症状がみられたら前十字靭帯断裂の疑いがあります!
動物病院で診察を受けましょう。
- 肢を地面に着けず、挙げたまま歩いている
- 患部が腫れている
- 患部を触ると熱い
- 触ると痛がる
- 元気がなく、動かない
好発犬種
小型犬から大型犬まですべての犬種にみられる病気です。特に6歳以上の子に多くみられますが、1歳からの若い子に起こることもあります。また、体重の負担がかかりやすい大型犬に多いといわれています。
ゴールデン・レトリーバー、ラブラドール・レトリーバー、バーニーズマウンテンドック、柴犬、ビーグル、トイプードル、ヨークシャーテリアなどが挙げられます。
前十字靭帯断裂の診断と検査方法
①身体検査(歩行検査)
歩行検査を行います。実際に歩いてもらい、歩き方や早足の時の様子を観察します。各足に体重が均等にかかっているか、動き始めの状態などが確認できます。
②触診(整形検査)
膝関節に特定の方向から力をかけた時の脛骨の動く範囲を調べます。また、左右の後肢を比較し膝関節に腫れがないかをみます。
③レントゲン検査
膝関節の評価を行います。前十字靭帯はレントゲンには映らないため、靭帯損傷による炎症の有無を調べます。また、術前計画や今後の治療方針を決定するためにレントゲン検査を行います。
④その他
必要に応じ、超音波検査や血液検査、細胞診検査などを加える場合があります。
前十字靭帯の治療方法
1.外科的治療
関節外法
人工材料を人工靭帯として用い、大腿骨と脛骨を安定化する方法の手術です。
TPLO(脛骨高平部水平化骨切り術)
脛骨の一部を切り、角度調整を行い、プレートで固定することで膝関節を安定化させる手術です。
関節外法より早く膝関節の機能改善が見られます。
術後は安静する必要があるため入院が必要になります。その間は点滴やペインコントロール(痛みの緩らげる治療)を行います。
退院後は保護包帯を着け、フローリングや階段を避けた軽い運動を行っていきます。
2.内科療法
内科療法は保存療法であり、根本的な問題を解決するものではありません。ですが、状態、年齢によっては内科療法を選択することもあります。
保存療法とは環境改善、生活改善、投薬により症状を抑えたり、骨関節炎の進行を抑制する治療方針です。
発症年齢や重症度、症状の程度、経過、体重、飼育環境など様々な事を考慮して治療方法を検討していきます。
その子にあった治療方法を一緒に考えていきましょう。
ケージレスト
ケージの中で安静にしてもらい、運動制限を行います。
投薬
痛みが強く出ている時は鎮痛剤などを使用して適度な運動ができるようにします。また、サプリメントの投与を行います。
環境改善
滑りやすいフローリングを避けたり、滑り止めマットなどを敷きます。また、段差や階段ののぼり降り、激しい運動を控えます。
体重管理
肥満にならないよう体重管理を行います。
リハビリテーションの実施
基本的には手術後に行います。断裂を起こした足とそうでない足での筋肉や重心のかけ方、歩き方に差が生じないように筋肉量を増やすためのトレーニングを行ったり、筋肉を動きやすくするためのマッサージを行います。